再び上野駅に戻ってきた私は、電車を降りてから駅の改札を通り抜けて外に出ました。大きい道路をしばらく歩いて目指す警察署へと到着しました。警察署に入り先ほど電話で話したことを説明して本人であることを確認した後、ついに自分の財布と面会することになりました。
自分の目で中身を確認したところ何も損傷はないようでした。警察に届いていて本当によかった。大きい額の現金が入っていたのに盗まれることもなく、そのまま自分の手元に戻ってきたのですから。私は現金が抜き取られて無くなるのは仕方ない。置き忘れた自分が悪いのだから。とある程度覚悟は決めていました。それよりもキャッシュカードやクレジットカード、免許証や保険証などが盗まれて個人情報が外に漏れることだけは不安で不安でたまらなかったのです。結果的には全て問題なく、元の状態のまま戻ってきたのは奇跡と言っても過言ではないでしょう。本当にこの時だけは人生で一番安堵した瞬間だったと思います。
さてところで誰が私の財布を駅のトイレで見つけて警察署まで届けてくれたのでしょうか。当然警察署員の方は届けてくれた方の身元や連絡先も確認してあり、私に教えてくれたのです。財布を届けてくれた相手への連絡やお礼などは当人同士でやってください。とのことです。ひとまず警察署の方へは丁寧に感謝の意を伝え、しばらく離れ離れになっていた財布を連れて帰宅することにしました。今度は絶対に離れ離れにならないようにカバンの中にしっかりと入れておきました。
私の財布を警察まで届けてくれた方は、神奈川県に住んでいる男性の方でした。警察署員の方からはその方のお名前と電話番号、住所を聞いていました。私は早速電話をしてみると声の感じから30~40代くらいの方ではないかと推察しました。話し方からもとても誠実そうな雰囲気を感じました。少し世間話もしながら今回の出来事への感謝の気持ちを何度もお伝えしました。相手様も決して奢ることはなく当たり前のことをしただけですと、とても謙虚な回答ばかりが返ってくるだけでした。お礼については後日改めてということにして、この日はこれで一旦終わりということにしました。
私は翌日、少し立派なお菓子の詰め合わせと、今回の件についてのお礼を現金でお返しすることにしました。よく昔から言われていることで、財布を拾って届けたら中身の1割をお礼としてもらえると言われていました。現金は8万円強入っていたので、1割だと8千円くらいです。しかし何かキリが悪い金額になるので1万円をお菓子と一緒に包んで郵送でお渡しすることにしました。
私は今回の出来事についての感謝の気持ちを便箋2枚ぐらいにびっしりと書き綴り、お礼品と一緒に後日恩人の方へお送りいたしました。それから数日経って財布を拾った恩人から手紙が届きました。手紙の内容は、「1万円ももらって申し訳ない」ということと、「財布を落とした人が困っていることを考えれば人間として当たり前のことをしたまでだ」という内容でした。そして私がお礼に包んだ1万円については決してここまでしていただけるとは思いもしなかったということで逆に大変感謝されました。大切に使わせていただきます。と最後には綴られていました。
私は今回の件で自分の不注意を大いに反省しました。二度と繰り返さぬようにその後は自分の行動にとても注意深くなりました。また誠実な人と出会ったことで本当に窮地を脱することができました。奇跡を感じることができました。優しくて正しい心を持つ人に出会うことができました。漫画やドラマにありそうな出来事が現実にあるとは不思議なものでした。人間は正しい行動をするべきです。日本は色んな意味で生きていくことがどんどん厳しくなってきています。生活が厳しくなれば人は良からぬ行動に出てしまうことがあります。殺伐とした世の中でもやはり正しい心は持っていたいですね。因果応報という言葉がある通り、この世は悪いことをすればいずれ自分にも返ってくるし、善い行いをすればそれもめぐりめぐって自分に返ってくる。私も普段からの行動を正しく判断して生きていきたいと思います。